人事評価へのAI導入 稟議書テンプレート(Word無料)|決裁前に確認する9項目
人事評価へのAI導入の稟議書は、結論と決裁事項を1枚目に置き、現在の評価の課題、AIと人の役割分担、比較検討、法令・セキュリティの確認、試験導入の計画、費用の順にまとめます。差し戻されやすいのは法令の部分で、従業員の個人情報の利用目的と委託先の監督、海外での処理、モニタリングの社内ルール、就業規則の変更手続きを事前に整理しておくことが重要です。
この記事では、人事評価へのAI導入を検討する稟議書の書き方と、決裁前に確認しておきたい法令の論点を紹介します。
稟議書に入れる9項目
稟議書は、決裁者が確認する順に、9つの項目で構成します。テンプレートには項目ごとに記入のポイントと記入例を入れています。
- 稟議事項:件名、結論、決裁を求める事項、費用、日程、期待する効果
- 背景と現状の課題:検討の経緯、現在の評価制度の課題を数字で
- AIが担う作業と、人が引き続き判断すること
- 比較検討:現行のまま、人事評価システム、業務記録にもとづくAI評価支援
- 法令・セキュリティの確認事項
- 試験導入の計画:対象、期間、従業員への周知、評価指標
- 費用
- リスクと対策
- 決裁事項
別紙として従業員向け周知文の案もつけています。決裁が下りたあと、最初に必要になるのが従業員への周知だからです。
1枚目には結論と決裁事項を書く
決裁者が1枚目だけで判断できるようにします。経緯の説明から始めず、結論と決裁を求める事項を冒頭に置きます。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 結論 | 2チームで下期の評価時期を含む約4か月間試験導入し、本格導入の可否を判断することを提案します |
| 決裁を求める事項 | 試験導入の承認、労働組合(または過半数代表者)への説明、委託先のセキュリティ審査の開始 |
| 費用 | 試験導入期間 月額○○円(対象○○名) |
| 日程 | 12月 説明・契約 → 1月〜3月 試験運用 → 4月 下期評価で検証 → 5月 本格導入の判断 |
「全社導入」より「試験導入の承認」を求めるほうが決裁は早く進みます。判断する範囲が小さく、事前に決めた評価指標が次の判断の根拠になります。
現在の評価の課題を数字で示す
現在の評価の課題は、社内の数字で示すのがもっとも説得力を持ちます。前回の評価結果があれば、次の指標の多くは算出できます。
| 指標 | 示す課題 | 算出方法 |
|---|---|---|
| 評語の分布(B以上の割合) | 点数が寄って差がつかない | 前回の評価結果 |
| 評価者ごとの平均点の差 | 同じ仕事に評価者ごとに違う点数 | 評価者別の平均を比較 |
| 評価の時期の作業時間 | 評価者と人事の運用負担 | 評価者アンケート |
| 評価結果への不満・異議の件数 | 結果に納得していない | 相談窓口、面談記録 |
| 不利益な処分時の根拠記録 | 法的なリスク | 直近の事例を確認 |
社内の数字が足りない場合は、外部の調査を添えます。『日本の人事部 人事白書2025』では、評価・報酬制度の運用の課題として「評価者による基準や運用のばらつきがある」が67.7%で最多でした。※9 育成目的の多面評価を分析した研究でも、評価点のばらつきの半分以上(2つのサンプルで62%と53%)が、評価される人ではなく評価者固有の傾向によるものでした。※10
AIが担う作業と人が判断すること
決裁者が最初に気にするのは「AIが人を評価するのか」という点です。作業ごとに分けて表で示すと、この疑問にすぐ答えられます。経団連の報告書も、HR部門のAIは「人間の意思決定のサポート」であることを大前提に置いています。調査に回答した75社のうち、人事評価でAIを活用している会社は13社にとどまります。※8
| 作業 | 現在 | 導入後 | 人が引き続き行うこと |
|---|---|---|---|
| 根拠集め | 評価の時期に記憶で | 業務ツールの記録から基準ごとに根拠を集める | 根拠が正しいか確認 |
| 評価コメントの下書き | 評価者が白紙から作成 | 根拠つきの下書き | 修正して確定 |
| 評語・処遇の決定 | 評価者・部長 | 変わらない | 評価者・部長が決定 |
| 面談の準備 | 特になし | 面談での確認事項の提案 | 面談を行う |
ポイントは3行目です。評語と処遇は人が決めるという一文を、稟議書と従業員向け周知文の両方に同じ言葉で入れることが大切です。
3案の比較検討
比較検討では、少なくとも3つの案を同じ基準で並べます。製品名より方式で分けると、決裁者が判断しやすくなります。
| 基準 | 現行のまま(Excel等) | 人事評価システム | 業務記録にもとづくAI評価支援 |
|---|---|---|---|
| 点数ごとに根拠が残るか | 評価者が自分で書く必要がある | 入力欄はあるが、埋めるのは人 | 記録から根拠を集めて添える |
| 評価者間のばらつき | そのまま | 調整機能で一部抑えられる | 同じ根拠を見ながら調整する |
| 運用負担 | 回収・調整が手作業 | 回収は自動 | 回収・根拠集めが自動 |
| 新たに必要な確認 | なし | 個人情報の委託 | 個人情報の委託、海外での処理、モニタリングのルール |
最後の行のとおり、AIを使う方式は確認事項が増えます。これを隠さず、次の確認事項につなげて書くと、稟議書の信頼性はかえって高まります。
業務記録にもとづくAI評価支援は、すべての会社に合うわけではありません。現場作業や外回りの営業のように、仕事の記録が業務ツールにほとんど残らない職種が中心であれば、読み込める根拠が足りません。その場合は、人事評価システムと根拠欄のある評価シートから整えるほうが合っています。
法令・セキュリティの確認事項
法令・セキュリティの確認事項は、稟議が差し戻されやすい論点です。項目ごとに根拠となる条文と担当者を書いておきます。
| 項目 | 根拠 | 確認すること |
|---|---|---|
| 利用目的の特定・通知 | 個人情報保護法 第17条・第21条 | 従業員の個人情報を評価に使う目的の特定と、本人への通知・公表 |
| すでにある記録を評価に使う | 個人情報保護法 第17条第2項・第21条第3項・第18条 | 利用目的の変更にあたるか、変更後の目的の通知・公表。関連性の範囲を超えるなら本人の同意 |
| 委託先の監督 | 個人情報保護法 第25条 | 提供事業者との委託契約と、委託先に対する監督 |
| 外国にある第三者への提供 | 個人情報保護法 第28条 | データが海外のサーバーやAIで処理されるか、同意または体制整備の要否。保管だけの場合は「提供」に当たらないこともあるため、事業者の取り扱いを確認 |
| モニタリングの運用 | 個人情報保護委員会 Q&A 5-7(参考) | 目的の特定と社内規程への明記、責任者の決定、労働組合等への事前通知・協議 |
| 就業規則の変更 | 労働基準法 第89条・第90条・第106条 | 評価制度を就業規則で定めている場合の、過半数労働組合または過半数代表者の意見聴取、届出、周知 |
| 不利益な処分の根拠 | 労働契約法 第16条(解雇)・第3条第5項(権利の濫用) | 解雇は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性。降格・減給は就業規則などの根拠と、人事権の濫用に当たらないこと |
| 提供事業者のセキュリティ | 契約 | 元データの保管の有無、AIの学習への利用の有無、再委託先、アクセス記録、契約終了時の削除 |
個人情報保護法は、個人情報の利用目的をできる限り特定し、取得時に本人へ通知または公表することを求めています。また、取り扱いを委託する場合は委託先を監督しなければならず、外国にある第三者へ提供する場合には同意などの手当てが必要です。すでに社内にある業務の記録を新たに評価に使う場合は、利用目的の変更として扱えるか、本人の同意が必要かを確認します。※1
個人情報保護法は2026年7月に改正法が公布されました。施行は公布後2年以内で、課徴金制度の導入や委託先の規律などが見直されます。提供事業者と契約するときは、改正内容への対応も確認しておきます。※5
業務ツールの記録を読み込む仕組みは、個人情報保護委員会がQ&Aで示しているモニタリングの留意点も参考になります。目的をあらかじめ特定して社内規程に定め、従業員に明示すること、責任者と権限を定めること、ルールを事前に決めて運用することが挙げられています。また、重要事項を定めるときは労働組合等に通知し、必要に応じて協議することが望ましいとしています。※2
評価制度を就業規則や人事規程で定めている会社では、変更の際に過半数労働組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴き、届け出て、従業員に周知する必要があります。※3 評価結果を解雇に使う場合は、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が問われます。降格や減給は、就業規則などの根拠があり、権利の濫用に当たらないことが前提です。※7
なお、2025年に成立した人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律は、第7条でAIを活用する事業者に、国や地方公共団体が実施する施策への協力を求めています。人事評価にAIを使う会社への個別の手続きは定めていません。※4 同法にもとづく適正性確保指針(2025年12月)とAI事業者ガイドライン(2026年3月改定)は、AIを活用する事業者の取り組みを示しているため、社内ルールをつくるときの参考になります。※6 実務上の確認は、上の表の個人情報保護法と労働関係法令が中心になります。
試験導入の設計
実際の評価の時期を1回含む3〜4か月、業務ツールに記録が残りやすい2チームから始める例で考えます。下期の評価を3〜4月に行う会社なら、1月から始めて4月の評価で比べます。評価指標は開始前に数字で決めておきます。
| 評価指標 | 測定方法 |
|---|---|
| 根拠のある評価項目の割合 | 評価コメントの項目別の根拠の有無 |
| 評価コメントの記入時間 | 評価者アンケート(導入前後) |
| 評価者から見た根拠の正確さ | 根拠のサンプルを評価者が確認 |
| 従業員の納得感 | 面談後アンケート |
試験導入期間の結果は処遇に反映しないと事前に決め、周知文にも書いておきます。従業員も評価者も、負担を感じずに試せます。
稟議の前に提供事業者から受け取る資料
決裁者や法務部門が求める資料を先にそろえて添付すると、稟議が一度で通る可能性が高まります。
- セキュリティの概要:データの保管場所、元データを保管するか、誰がアクセスできるか
- 個人データの取扱いに関する覚書(DPA)と再委託先の一覧
- AIの処理条件:顧客データをモデルの学習に使うか
- 評価画面のサンプル:根拠が実際にどう添えられるか
- 従業員向け周知文の案
CoSprint Peopleで検討する場合
CoSprint Peopleは、チームがすでに使っている業務ツールとつながり、評価期間の記録を自社の基準ごとに集め、項目ごとに該当箇所の抜粋(1行)と元の記録へのリンクを添えます。根拠のない項目は点数を空欄にし、評語と判断は評価者が行います。
上の5つの資料のうち、セキュリティの考え方はセキュリティのページでご覧いただけます。個人データの取扱いに関する覚書(DPA)と再委託先の一覧は英語版を公開しています(DPA、再委託先一覧)。従業員向け周知文の案は、導入時にCoSprintのアシスタント(Jello)が自社の状況に合わせて作成します。
よくある質問
Q1. 人事評価にAIを使うことは法律上問題ありませんか?
AIで評価を支援すること自体を禁じる法律はありません。ただし、従業員の個人情報の利用目的の特定と通知、委託先の監督、海外で処理する場合の対応、評価結果を不利益な処分に使う場合の合理性が求められます。具体的な判断は社会保険労務士や弁護士に確認してください。
Q2. 労働組合がない会社でも、従業員への説明は必要ですか?
必要です。評価制度を就業規則で定めている場合は、変更時に過半数代表者の意見を聴く手続きがあります。また、何を読み込み何を読み込まないかを事前に周知することは、規模にかかわらず欠かせません。
Q3. AI推進法(AI法)で、導入する会社に義務はありますか?
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律の第7条は、AIを活用する事業者に、国や地方公共団体が実施する施策への協力を求めています。人事評価にAIを使う会社への個別の手続きは定めていません。ただし、同法にもとづく適正性確保指針(2025年12月)とAI事業者ガイドライン(2026年3月改定)が、AIを活用する事業者の取り組みを示しています。運用ルールは、個人情報保護法や労働関係法令に沿って整えます。
Q4. 試験導入の期間はどのくらいが適切ですか?
実際の評価の時期を1回含めることが大切です。たとえば下期(10月〜3月)の評価を3〜4月に行う会社なら、1月から試験運用を始め、4月の評価で評価コメントの記入時間や根拠の正確さを比べます。試験導入期間の結果は処遇に反映しないと、事前に決めておくと安心です。
Q5. 従業員に監視と受け取られないか心配です。
読み込む範囲より、読み込まない範囲を先に伝えるほうが効果的です。個人のメッセージ、個人のドライブ、勤怠、メッセージ数などの活動量は読まないこと、評語と処遇はこれまでどおり人が決めることを周知文に明記してください。テンプレートに周知文の案を入れています。
CoSprintで見る
参考資料
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第17条・第18条・第21条・第25条・第28条
- 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q5-7(従業者のモニタリング)
- e-Gov法令検索「労働基準法」第89条・第90条・第106条
- e-Gov法令検索「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」第7条
- 個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(2025年12月19日 人工知能戦略本部決定)と各府省庁のガイドライン一覧
- e-Gov法令検索「労働契約法」第3条第5項・第16条
- 日本経済団体連合会(2026)「HR部門におけるAI等の活用に関する報告書」
- 日本の人事部(2025)「評価・報酬制度の課題は『基準や運用のばらつき』が7割【人事白書2025 調査結果】」
- Scullen, S. E., Mount, M. K., & Goff, M.(2000)「Understanding the latent structure of job performance ratings」Journal of Applied Psychology 85(6), 956–970